2011年2月1日火曜日

第二弾!

鈴木おさむの番組はお試しか!が好きだったね。ここでだったと言ったのは現在はつまらないからだ。なんかどんどんクオリティが下がって言ってるのをヒシヒシと感じるのです。ゴールデン上がる前は面白かったのになあ。

〈「やろうと思ってた」と「やる」の間には実は大きな川が流れている〉

お笑いコンビ、イエローハーツの甲本が、漫才もコントもすべて含めてネタが1番おもしろい人を決定するコンテスト「笑軍天下一決定戦」の出場を決めたときのセリフだ。

そんな芸人もコンテストも聞いたことないって? それもそのはず。これは本日3月11日発売。放送作家鈴木おさむの小説『芸人交換日記~イエローハーツの物語~』の話なんだから。
テレビで活躍することもなく、30歳を超えて未だ無名のコンビが、お互いの絆を深めていくために、交換日記でお互いの言いたいことを言い合っていく。それが『芸人交換日記』。
物語は日記形式で進んでいく。
4月1日に甲本(ツッコミ)が日記を書き始め、田中(ボケ)の家のポストに置いてくる。
最初の返事が返ってきたのは4月3日、もらってから2日経っている。しかも田中がまともに返事を書き始めるのは4月12日から。それまではずっと〈嫌です〉。〈日記じゃなくて、メールでいいんじゃないですか?〉ともあって、それはもっともだ。嫌なのにちゃんと日記を書いて、律儀にポストに投函していく田中。いい人。

日記中にまるで漫才のような掛け合いもあったり、ふたりのテンションがそのまま伝わってくる。本当にこのお笑いコンビがいると錯覚しちゃうんだよ。
これはやっぱり、作者が多くのお笑い芸人を見てきた鈴木おさむだからだろう。何百組もの若手と触れ合ってきたから「若手芸人はここでこう考える。こういう行動をとる」ってのがわかっているんだろうな。
先日、鈴木さんにインタビューする機会に恵まれたのだけど、芸人と飲みに行ったり、仕事について語り合ったエピソードが多かった。「え、あの芸人さんと!?」って人が多くて、ちょっと内心ドキワクしてたミーハーです。
芸人のことが好きで、芸人たちからも信頼されているからこそ、この「芸人交換日記」を書くことができたんじゃないかなあ。

甲本は自分でネタを書かないタイプの芸人だ。
仕事がない日は何をしているかというと、コンパや風俗三昧。金融会社の限度額も一杯。バイトにもいかずに彼女のヒモ状態、という絵に描いたようなダメ人間。
そのダメっぷりにイラっとするときもあるんだけど、たまに見せるお笑いへの真剣な考えがかっこ良くて、なんか許せちゃうんだよ。
〈正直、俺はネタを考える能力はない。今、イエローハーツにとってのキャッチーなネタを作らなきゃいけないってのも分かる。
でも、俺にはその力がない。お前が一番分かってるだろ? お前の力になってやれない歯痒さもある〉
売れてるコンビは名前に「ん」が付いている法則から、自分たちのコンビ名も「イエローハンツ」とか「イエロンハーツ」にしようとか提案してみたり。馬鹿でどうしようもないんだけど憎めないやつなんだよなあ。
TSUTAYAで働いている田中のカバンのなかに、こっそり自分が借りていたAVを入れる甲本。延滞料金が5000円と知って、立て替えてもらうためにやったのだ。
そんな馬鹿なことをやっているうちに、イエローハーツにとって最大のチャンスがやってくる。
それが「笑軍天下一決定戦」だ。この大会に優勝すればテレビのレギュラーも保障されていて、間違いなく生活は安泰。田中はもうTSUTAYAでバイトしなくていいし、甲本もヒモ生活からおサラバできる。
でも、甲本はどうしても出たくない。出ても勝てないの一点張り。
甲本が「笑軍コンテスト」に出たくない理由。それは、今回こそ本当に、失敗したらあとがない「最後のチャンス」だったからだ。
今までの芸人人生で良いことはまるでなかった。その上最後のチャンスにチャレンジして、それすらもダメだったら、さらに自信がなくなる。
自信がなくなってまで芸人を続けられるのかと葛藤する甲本。

甲本はかつて、M-1の準決勝で大事なツッコミの最中に2回も噛んでしまった。そのせいで減点され、落ちたと思い込んでいるのだ。「笑軍」をビッグチャンスだ、と思うより先に、ミスをした自分のトラウマを思い出してしまう。
田中が〈笑軍コンテストに出るの、怖いんですか??〉と尋ねると、〈ふざけんなよ!! 怖いはずないだろ!〉と甲本が返す。
〈やっぱり怖いんでしょ?〉〈怖くはないって。しつこいぞ!!〉
このやりとり。10月8日から9日にかけて、ふたり合わせて12回、つまり6往復も日記をやりとりしているのだ。書くたびにお互いの家に行きポストへ入れにいく。はじめの〈嫌です〉が嘘のように盛り上がっている。
しかし、田中が〈M-1の準決勝のこと、まだ気にしてる?〉と聞き、その返事が帰ってきたのは10月11日、2日後だ。

わー、リアルだよなあ。俺は交換日記の経験はないんだけど、好きな人や親しい人からのメールにはすぐ返すのに、ちょっと面倒くさいなってメールだと「あとで返せばいいや」とか「返信いやだなあ」って考えちゃってそのまま放置しちゃうのに似ているよね。
〈芸人……ってすごい仕事だよな。売れてなくて借金が膨らんでいっても、「芸人やってます」ってことで安心できる。それでOKにしてる自分がいる〉
〈無職の人も、仕事がない芸人も同じなのに、芸人って名乗るだけで、みんな夢への切符を持ってるって思い込ませてる〉
コンテストで負けたら、自分には芸人の才能がないと気付かざるをえない。それが怖い。
甲本は、知り合いの元芸人の〈芸人の才能はなかったけど、やめる才能くらい持っていたい〉という言葉がずっと引っかかってきた。
悩んでいると、中学のときの先生に聞いた言葉を思い出す。
〈やろうと思ってる人は一杯いて、それを実行に移す人はほんの一握りなんです。「やろうと思ってた」と「やる」の間には実は大きな川が流れているんですよ〉
「いつかやる」「明日から本気出す」と言いながら結局何もしない人は多い。お笑いのことが大好きで、名前だけの芸人なんて絶対に嫌だ。〈このままじゃ、芸人やってるくせに、実際にはな~んにもやってなくて、「やろうと思ってる芸人」になっちまうもんな。だから出る。笑軍コンテスト!!〉と出場を決める甲本。
しかし、甲本はこのあと「夢を諦めなきゃいけない」事態になっていく……。

「夢を諦めるのも才能だ」と本書では言っているけど、「夢を見つづけて努力するのも才能」だし、「この仕事がやりたい!」って夢を持っていることがそもそも才能だと思う。
だって俺はなんにもやりたいことがなくて、なんかいつの間にかフリーライターになっていたから。でも、今はそれが楽しいんだけどね。
『芸人交換日記』は、夢を持っていたけど特に今は何もしていないって人に読んでもらいたい。そして「夢を持っていた」ってこと自体がすでに才能だったんだって思い出して欲しい。諦めるのも続けるのも、そこからじゃないのかなあ。

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